小規模農家に向かう国連と日本の農業・日本の農業とTPP(18)

世界の食料生産は、ピークオイル、ピークランド、ピークウォーターといった巨大な壁に直面している。工業化された大規模農場では、食の安全保障は実現できないことが明らかになりつつある。そこで、近年では国連も、「小規模家族農家の価値を見直すべき」という主張を積極的に展開している。2013年6月には、「食料保障のための小規模農家への投資」という画期的な報告書が、国連の世界食料保障委員会から出された。報告書は、家族農業が食料供給に果たす役割を再評価している。それと同時に、女性・高齢者にも雇用の場を生むこと、血縁・地縁の相互扶助や兼業などで安定した経営ができること、大規模・集約化により環境負荷が小さいこと、社会的・文化的価値を保存することを評価する。

こうして国連は2014年を「国際家族農業年」に定めた。国連食糧農業機関(FAO)も、気候変動や飢餓、社会開発などの諸問題に対応するために、これまでのような大規模農業を重視する政策から小規模家族農業を重視する政策へと転換することを求めている。小規模農家は、食料保障と栄養供給にとって必要不可欠であり、多くの国では小規模農家の役割抜きに、食料安全保障は実現できないと考えるようになったのだ。さらに国連は2015年を「国際土壌年」に定めて、限りある土壌資源の持続性を高めることの必要性を世界に呼びかける。2015年9月の国連総会では「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goalsの略)」が採択される予定だ。持続可能な世界を築くことが、ようやく人類にとって再優先の課題になりつつあるのだ。

ところが、日本政府は環太平洋経済連携協定(TPP)に参加し農産物の輸入を拡大する一方、国内の農地を集積して規模拡大させる政策を推進しようとしている。しかし、日本の農家が所有する農地面積は、アメリカやオーストラリアと比べれば数百分の一から数千分の一でしかない。2008年に読売新聞が連載した「食ショック」の試算によれば状況はもっと厳しい。「輸入がすべて止まった場合に、政府の食料備蓄や食料品の流通在庫を除いて今すぐ国内で生産できる、いわば日本の食料供給の『素の実力』」は、996キロカロリーにすぎないという。これは、1〜2歳の男児が1日に必要なエネルギー量でしかない。日本は、トウモロコシや大豆などの家畜飼料や、ナタネなどの油量作物のほとんどを輸入しているため、動物性たんぱく質や脂質などの栄養素もまったく不足することになり飢餓に苦しむようになるのは必至だ。

今の世界が持続可能な新たな時代に移行するためには、長期にわたる時間が必要であり、大きな犠牲を伴わずに新たな社会を迎えることは不可能である。新たな食料革命や日本の農業について考える時を迎えている。

日本では、環境省の環境研究総合推進費戦略的研究プロジェクト(S-11)として、2013年より、東京工業大学、東京大学、東北大学、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)らが共同で、MDGs(Millennium Development Goalsの略)の継続とSDGsとの統合に関する研究に取り組んでいます。MDGsは人間開発分野における目標であり、途上国の貧困や初等教育、保健等の従来通りの開発問題が中心で、先進国はそれを援助する側という位置づけに対し、SDGsでは開発という側面だけでなく、経済面・社会面・環境面の3つの側面全てに対応することが求められています。また、全ての国を対象とし、先進国における生産と消費、自然エネルギー、途上国における国内の資金動員などの課題も取り扱われる見込みです。

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