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ポーと猫の写真館
日本の農業とTPP(9)
日本の農業は海外ではまだまだ戦える。TPP参加国の間の需要、つまり、公共事業等の農業インフラの請負うビジネス。日本では、高度成長時代から現在まで、日本中でさんざんやってきたこともあり、地方の農業土木事業者がもっとも強みを発揮しやすい分野である。田畑の区画整備から用水路、道路、ため池、ダム等の農業用インフラ整備はお手の物だ。用水路ににいたって公共事業として地球何周分もの整備を行ってきた実績を持っている。水田だけではなく、畑地灌漑の農業土木技術も進んでいる。日本では農業地帯では上下水道と合わせて、灌漑用のパイプが地下を走っている。蛇口をひねれば、スプリンクラー等で灌水できる畑が日本に44万ヘクタールもある。とくに水資源の少ない離島では、世界中から最新技術を導入した灌漑インフラが徹底的に配備されている。
国内の農業用公共事業が減る中、これまでの経験を活かして、土木工事と設備メーカーがパッケージで海外に出ていく時だ。とくに、政府調達のルールが未整備の新興国でこの引き合いが大きい。この点でもTPP交渉で、国際的な政府調達協定に加盟している日本だからこそ、果たせる役割がある。もちろん、政府調達ビジネスはさまざまなリスクも伴う。契約が履行されない場合などは、TPPのISD条項(投資家対国家間の紛争議決条項)が必要になり活用できる。
世界の農業ビジネスでは、I&D(灌漑と排水、Irrigation & Drainage)と呼ばれる領域だ。ただし、I&Dは農場を灌漑すれば終わりというビジネスではない。灌漑によって農産物の生産性を上げ、また、天候に左右されずに生産性が安定することで、インフラ投資のリターンを得るものだ。どんな農産物をつくり、誰にいくらでどれだけ売り、投資した金額をどのように回収するか。それをトータルで考え、実行できるノウハウ提供でなければ、事業として成立しない。水道ビジネスと同様、利用料とメンテナンス、更新によるビジネスで長期的に稼いでいく。結果評価の甘い日本の公共事業やODAより厳しい世界だが、勝算がないわけではない。
すでに現地で指導を行っている農家もおり、企業としては農機大手のクボタも海外で農業インフラビジネスを手がけつつある。クボタは水管理技術を有し、灌漑整備後には本業の農業機械もパッケージにして販売できるメリットもある。農場整備から参画できれば、自前の海外農場進出とセットにして、地元農家と提携し産地の農作物マーケティングまで関与しやすい。アジア各国から日本人農家ブランドで世界へ輸出を目指すのだ。国境を超えても「同じ農家」という同士の連帯感もこうしたプロジェクト成功には重要だ。地域振興が成功すれば、次々と新たな案件が舞い込んでくる。日本と同様、ビジネスチャンスの少ない農村の成功事例の横展開スピードは早い。TPPを機に、日本の農業人が世界で飛躍するフィールドが眼前にあるのだ。
つづく・・・