【2020年度】Pachypodium baronii var. windsorii 人工受粉 → 種子の採取 →播種 備忘録


『吾輩は猫である』などで知られる夏目漱石は俳人でもあります。その中に次の一句があります。

落ちざまに虻を伏せたる椿かな

虻(アブ)が椿(ツバキ)の蜜を吸っている最中に花が落ち、その中に虻が閉じ込められたという句です。夏目漱石の門下生の一人に物理学者であり俳人・随筆家でもある寺田寅彦がこの俳句に疑問を持ちます。花は仰向きに落花するのかうつ向きに落花するのか。ウィンゾリーの場合はどうでしょうか。そもそも、なぜ花は落ちるのか。植物を栽培し、受粉をし種を採取する際にはこの問題を考えると、本来の受粉後に何が起こるのかが理解できるのではないでしょうか。

花枝の先端に形成される蕾の元には離層があります。離層は細胞間を接着している物質を分解する酵素によって細胞間物質が分解されれ、花枝と花の元の細胞間が引き離され花が落花します。花全体が脱落した場合は、受粉・受精が不調に終わった場合に起こります。本来は昆虫などのポリネーター(花粉媒介者)によって花から花へと花粉を運び受粉するのが自然受粉ですが、自生地であるマダガスカルとは環境も異なり、確実に受粉をさせるためには花の仕組みを理解することで、ウィンゾリーの人工受粉の成功のヒントがあるのだと思います。諦めず、考え続け、行動する。

【塊根・塊幹植物】Pachypodium baronii var. windsorii , seeds パキポディウム・ウィンゾリー 育て方・株の増やし方
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Pachypodium baronii windsorii seeds パキポディウム ウィンゾリー バロニー
【Pachypodium baronii var. windsorii】手前に種さやが2つ、左右に人工授粉が成功した蕾が2つ、真ん中に蕾が2つあります。
Pachypodium baronii windsorii seeds パキポディウム ウィンゾリー バロニー
【Pachypodium baronii var. windsorii】種さやの状態。どんどん大きくなっていきます。
Pachypodium baronii var. windsorii 受粉に成功しました
Pachypodium baronii var. windsorii の一番花に対し4月6日に人工受粉を行いました。4月10日には落花。一番花の人工授粉が成功し子房が膨らみ小さな種さやが確認できるようになりました。ウィンゾリーの人工受粉が成功したかどうかは落花した時点で分かります。落花した時点で子...
Pachypodium baronii var. windsorii 人工受粉を行いました
Pachypodium baronii var. windsorii の開花のタイミングを調整し、今年は20株の一番花のタイミングが揃いました。一番花が揃えば二番花、三番花と揃ってくるので、まずは20株の一番花の人工授粉を行いました。Pachypodium baronii var. windsor...
Pachypodium baronii windsorii seeds パキポディウム ウィンゾリー バロニー 塊根植物
【Pachypodium baronii var. windsorii】人工授粉をし、3つの種さやが成長中。

4月5日 栽培管理中の windsorii の一番花 開花し始める

4月5日 一番花 → 一番花落花(4月11日/5日後)
4月10日 一番花人工授粉を行う(A株↔B株) ※開花1日目 ※A株(A花枝)
4月11日 二番花 開花 → 二番花落花(4月17日/6日後)
4月12日 二番花 人工授粉を行う(A株↔B株) ※開花1日目 ※A株(A花枝)
4月16日 三番花 開花 → 三番花 落花(4月24日/8日後)
4月19日 三番花 人工授粉を行う(A株↔B株) ※開花3日目 ※A株(B花枝)
4月23日 四番花 開花 → 四番花 落花(4月27日/4日後)
4月24日 四番花 人工授粉を行う(A株↔B株) ※開花2日目 ※A株(A花枝)
4月27日 五番花 開花(B株) 
4月28日 A株 花枝(B)4月28日開花、花枝(C)も4月29日開花(B株:2個開花)
4月30日 五番花 人工授粉を行う(A株↔B株) ※開花1・2日目 ※B株(花枝B・C)
5月4日 六番花 開花(A株) → 六番花 落花(5月9日/5日後)
5月6日 二番花 開花(B株 花枝B・C 二番花) → 二番花 落花(5月13日/6日後)
5月11日 七番花 開花(A株)受粉予定なし
5月11日 新たな花枝(B株)が伸びる 蕾(4つ) 

※A株実生25年のPachypodium baronii var. windsorii
※B株実生25年のPachypodium baronii var. windsorii の血統の子孫

【人工受粉の結果】
一番花 A株 成功 ↔ B株 成功 ※開花 1日目 人工授粉(受粉方法:A)
二番花 A株 成功 ↔ B株 成功 ※開花 1日目 人工授粉(受粉方法:B)
三番花 A株 成功 ↔ B株 成功 ※開花 3日目 人工授粉(受粉方法:C)
四番花 A株 成功 ↔ B株 成功 ※開花 2日目 人工受粉(受粉方法:A)
五番花 A株 ↔ B株 (花枝B・C)成功 ※開花1・ 2日目 人工受粉(受粉方法:A)
六番花 A株 ↔ B株 (花枝B・C 二番花) 成功
 ※A株 開花4日目(雄しべ)→ B・C株 ※開花 2日目 人工受粉(受粉方法:A)
七番花 予定なし

4月27日(月曜日)・・・人工受粉四番花までの感想
記録はA株・B株の2株に対して記録を書き残す。人工授粉を行う場合には、受粉方法はAが自然に近い状態で受粉ができ一番適していると思う。受粉が成功している場合には、花の子房が膨らんだ状態で花だけが落花する。失敗している場合には、子房は膨らまず落花する際に子房ごと落ち、花枝の先端から伸びた部分の退化も早く綺麗に全部の部位が落ちる。

人工受粉の方法により種さやの成長の速さも異なる。A方法が一番種さやの成長が早く、B方法は落花に時間がかかる。C方法は自然受粉と比較した場合には、受粉する際にこの状態になることは無いため、受粉の成否は別としても不適切なのかもしれない。

A・B株に限らず、開花後の人工授粉が一番成功率が高くなる。明確に違う部分は採取できる雄しべからの花粉の量が異なる。蕾が膨らみ開花する直前(まだ、蕾が開かず丸い状態)でも花粉の採取は可能だが、花が開花していない為、雄しべの花粉が湿っているため採取できる量は少ない。

人工受粉を行った後、落花は日中ではなく夜間に落下している。

2020年は多くの花で受粉のテストをし記録を残しておきたいと思う。受粉を20株で多く行っているため今年はかなり多くの種が採取できると思う。日頃から種の保存として情報交換をさせて頂いている方を中心に無償で種子は譲り、今後のデータ採取に役立てたいと思う。日本国内で実生で25年経過し、現存している株は無いと思われる。開花し人工受粉に至るまでの1年間の詳細な栽培環境データは登録者にのみ公開することにする。

海外の方からの問い合せが非常に多いため、一度農林水産省の植物検疫所に問い合わせを行い、種を海外へ送れないか、送るためにはどうすればいいのかを考えてみたいと思う。

純血種の Pachypodium baronii var. windsorii の栽培にチャレンジしたい方には種を譲りたいと思います。今までブログでも案内しますが、2020年3月から今更ではありますが、Twitterを始めたので、Twitter(@Poe_Aosorafuu)をフォローして頂けたらと思います。時々植物の状態や種子等の配布等の情報をツイートしたいと思います。Twitterでは植物とはあまり関係ないこともツイートしていますがご了承下さい。あくまで、植物を大切に育てて頂ける方、情報交換をさせて頂ける方に対し、一定の条件を設けてお譲りしたいと思います。種さやが成熟し割れ鮮度が一番高い状態でお譲りしたいと思います。まだ先になりますが楽しみに待っていて下さい。
※必ずしも種をまいたからといって発芽するものではありません。それなりの環境等は必要となります。この点はご理解の程よろしくお願いいたします。

Pachypodium baronii windsorii seeds パキポディウム ウィンゾリー バロニー
【Pachypodium baronii var. windsorii】V字型の種さやのうち1つが割れ、ふわふわの綿毛がついた種が9個採取できました。もう片方も種さやも弾けそうです。2020年度の種さやの総数は22個(V字なので種さやの総数は44個)
Pachypodium baronii var. windsorii♀ × Pachypodium baronii var. windsorii♂
種子採取日時(2020年6月5日 撮影7:42)
採取場所(岐阜県 自宅)
気象データ(最高気温33.5℃ 最低気温20.9℃)
最大瞬間風速(m/s)(11.5(8.7(南西)
Pachypodium baronii windsorii seeds パキポディウム ウィンゾリー バロニー
【Pachypodium baronii var. windsorii】左側の種さやは既に弾けた状態、右側の種さやは弾け始めた状態。
Pachypodium baronii var. windsorii♀ × Pachypodium baronii var. windsorii♂
種子採取日時(2020年6月6日 撮影12:12)
採取場所(岐阜県 自宅)
気象データ(最高気温30.3℃ 最低気温22.1℃)
最大瞬間風速(m/s)11.5(西南西)
Pachypodium baronii windsorii seeds パキポディウム ウィンゾリー バロニー
【Pachypodium baronii var. windsorii】種には綿毛が付いていて、綿毛をひろげ風に種子が運ばれます。この鞘からは8個の種を採取することができました。左右の種さやから17個の種が採取することができました。
Pachypodium baronii windsorii seeds パキポディウム ウィンゾリー バロニー 塊根植物
【Pachypodium baronii var. windsorii】Pachypodium baronii var. windsorii(Poe 1995 ♀) x Pachypodium baronii var. windsorii(Poe 2005 ♂) など、6〜7月に採取したウィンゾリー(120粒)の種をまきました。各個体を遡ると1組の祖先にたどることができます。
撮影:2020年7月15日
Pachypodium baronii windsorii seeds パキポディウム ウィンゾリー バロニー 塊根植物
【Pachypodium baronii var. windsorii】Pachypodium baronii var. windsorii 播種(7月15日)→発芽(7月21日 発芽率100%・温度35度・湿度70%)。播種後6日で発芽。気温が下がる11月までにどこまで成長させることができるか。
撮影:2020年7月21日
Pachypodium baronii windsorii seeds パキポディウム ウィンゾリー バロニー 塊根植物
【Pachypodium baronii var. windsorii】 Pachypodium baronii var. windsorii 播種(7月15日)→発芽(7月21日 発芽率100%・温度35度・湿度70%)→子葉展開(7月23日)播種後8日で子葉展開。本葉の形状を見ることで血統を見極めることができるようになります。
撮影:2020年7月23日
Pachypodium baronii windsorii seeds パキポディウム ウィンゾリー バロニー 塊根植物
【Pachypodium baronii var. windsorii】Pachypodium baronii var. windsorii 播種(7月15日)→発芽(7月21日 発芽率100%)→子葉展開(7月23日))→本葉展開(温度35度・湿度70%維持)そして次の葉も出てきました。この時点で個体差が出始めます。根は既にジフィーセブンの白い不織布を破り出てきています。ウィンゾリーの本葉の形状は丸い形の葉をしています。
撮影:2020年8月15日
Pachypodium baronii windsorii seeds パキポディウム ウィンゾリー バロニー 塊根植物
【Pachypodium baronii var. windsorii】播種(7月15日)→発芽(7月21日 発芽率100%)→子葉展開→本葉→ジフィーセブンから鉢上げ(9月10日 温度30度・湿度70%)ジフィーセブンの周囲から根が出るまで成長。ここから11月まで成長を促進させます。温度は11月に備え30度に下げます。子葉も落葉していません。
撮影:2020年9月10日
Pachypodium baronii windsorii seeds パキポディウム ウィンゾリー バロニー 塊根植物
【Pachypodium baronii var. windsorii】根の状態もいいので植え替えを行います。人工光源での管理下で栽培を行っているのでどの株も葉の枚数もほぼ同じ枚数です。ファンで風を当てることにより幹も少しずつ膨らみ始めています。
撮影:2020年9月10日

『【2020年度】Pachypodium baronii var. windsorii 人工受粉 → 種子の採取 →播種 備忘録』へのコメント

  1. 名前:TOMMYZ 投稿日:2021/04/04(日) 23:12:57 ID:444081b6a 返信

    ウィンゾリーの人工受粉について、凄く詳細なデータで参考になりました。
    過去、CITES1の品種ですとウィンゾリー、デカリー(パキポディウムの方です)の人工受粉に何度か挑戦したのですが、成功したのは僅かでした。何とか維持していきたいと思いましたが、慣れた方の方がと思い、ウィンゾリーはベテランの知人に譲ってしまいました。代わりに頂いたデカリーで今年は何とか受粉させたいと思っています。

    • 名前:Poe 投稿日:2021/04/05(月) 00:41:18 ID:571c60792 返信

      TOMMYZ様
      はじめまして、Poeです。
      私も受粉には試行錯誤しました。今年は開花のタイミングにもよりますが、1番花が咲いたら、せっかく開花して切り落とすのは申し訳ないですが、切り落としてカッターで一度花の構造を見てみるのが一番だと思います。デカリーもキョウチクトウ科で白花の希少種です。しかし、花の構造は同じですから、花を開き雄しべと雌しべの位置、雄しべの花粉の付き方を見れば、2番花以降で受粉がしやすくなると思います。受粉する際にも花びらを少し切って受粉を行ったり、花びらを開かずに受粉させたりといろいろな方法がありますが、構造がどうなっているかを把握しておかないと受粉させることができません。
      一度、チャレンジしてみてください!

  2. 名前:TOMMYZ 投稿日:2021/04/05(月) 18:44:03 ID:63cffa505 返信

    ありがとうございます。
    今年は在宅でゆっくり受粉に
    取り組めそうですので
    頑張ってみます。
    咲いたらですけど

    • 名前:Poe 投稿日:2021/04/05(月) 21:20:30 ID:571c60792 返信

      TOMMYZ様
      既に開花したことがある株でしょうか?栽培環境にもりますが、4月に入り花芽が形成されるように調整していくのが理想かと思います。梅雨前には種鞘が弾け、播種をし発芽させ気温が落ちる11月末までに少しでも成長させるのが理想的だと思います。ですから、開花した日付は記録として残しておいて、春までの室温管理して4月〜5月に開花できるように調整をするといいかと思います。難しい印象がありますが、受粉させるよりも開花時期を調整させる方が難しいです。お互い、植物栽培を楽しみましょう!

  3. 名前:TOMMYZ 投稿日:2021/04/06(火) 19:45:22 ID:5786f650d 返信

    Poe様
    デカリーは開花実績有りの株ですが、千葉の大きな地震の際、上部が傷み剪定した株との事です。剪定後に我が家に来ました。昨年末、我が家の植物用ヒーターが故障などトラブルがあった為、千葉の元の持主の所に里帰り中で、今月中には引取に行く予定です。
    我が家で開花〜受粉できれば良いのですが

    今後もブログ、Twitter拝見し参考にさせて頂きます。ありがとうございました。

    • 名前:Poe 投稿日:2021/04/07(水) 00:30:46 ID:199418b02 返信

      TOMMYZ様
      関東在住でしょうか?地震は突然のことで、さぞ心細い思いをしていらっしゃるものとお察しいたします。私にお手伝いできることがありましたら、なんなりとお申し付けください。微力ながらできる限りのことをさせていただきます。地震の際に鉢が倒れた等で枝が折れたのでしょうか。私も猫を飼っているので猫に鉢を倒されて何度か枝が折れてしまいました。どの辺で折れたか分かりかねますが、折れた箇所を消毒したカッター等でキレイに形を整えて腐敗防止のために私はトップジンMを塗布しています。見た目は赤色っぽく最初は目立ちますが、パキポディウムは成長すればかさぶたのようにキレイに塗布したトップジンは剥がれます。ですから、お好みの樹形に整えることも可能ですし、枝の場合であれば枝の傷んだ部分を切り落とし防腐処理すれば先端の脇から2本枝が出てきます。慣れてくると、開花する花を増やすために、意図的に切って脇芽を出していくということも可能になります。4月の後半になれば下の気温も上がってくるので栽培しやすい環境に近づくと思います。パキポディウムの株の大きさにもよりますが、開花株であるなら5年前後は栽培しているかと思いますので、その時期であれば野ざらし雨ざらしでも問題なく成長してくれると思います。成長が楽しみですね。

  4. 名前:TOMMYZ 投稿日:2021/04/07(水) 06:47:46 ID:fc05ba5a9 返信

    Poe様
    お気遣い頂きき恐縮です。
    言葉足らずで申し訳ありません。千葉在住なのはデカリーの元持ち主で、私は神奈川在住です・・
    地震で地面に落下して折れたと聞きました。我が家迎え入れたのは剪定後で、剪定箇所はオレンジ色のコーティング(トップジン)の状態でした。その後、数カ所脇芽も出て順調に回復しております。

    丁寧にご教授頂きありがとうございました。

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